彼女の季節を戻したい

警戒される彼女


 木曜日の始業式の日の昼食の時間に約束したことを果たす日がやってきた。
 
 あれから、ときどき葵と喋るようになった。
 葵にも、妹のことを教えてもらったりしている。
 ……だけど、葵の事情に関しては、一度も教えてもらえていない。

 何で引っ越してきたのか。

 何人かがそれとなく聞くのに挑戦してみたりもしていたみたいだけど、失敗しているらしい。
 武が「不思議だよなぁ」と言って教えてくれた。

 まあ今までのことはいい。
 昼食を食べ終わった僕は、さっそく妹……柊里(しゅり)を連れて早乙女さんの家に向かう。

「ねえねえお兄ちゃん、どうして理由を教えてくれないの?」

 ただ、柊里には本当の暑がりというものを先入観なく見て欲しいから、その理由は言っていない。

「お前と似たところを感じたから気が合うんじゃないかなって思っただけだよ」

 嘘だ。
 葵に関しては問題ないけど、きっと柊里はそこまで葵に対して好感を抱かないんじゃないかな、と思っている。
 実際は分からないけれど。

「だからその似たところって何なの?」

 もちろん、半袖でいるところ。
 ちなみに、今も柊里は半袖だ。……一応腰に長袖を巻いているから、我慢できなくなったらたぶん着るんだろうな。ま、葵の前で長袖を着ようと柊里が思えるかどうかは知らないけど。

「まあ話しているうちに分かるよ」
「ずっとそればっかだよね、お兄ちゃんって」
「だって事実だから」
「むぅー……」

 そう言って拗ねたようになる柊里。

「よし、そろそろだな……って、もう外で待っているし……」

「やっほー!」

 早乙女さんの家の方を見ると、そこにはもう準備万全で相変わらず半袖……うん、今日は半袖……の葵がいた。

「え?」

 柊里が驚きの声をもらす。
 僕はそれに気づかなかったことにして、葵に近づいていく。

「やっほ。何で外で?」
「んー、……思っていたよりも早く準備が終わってしまったから、かな」

 葵は少し考え、そう答えた。

「ふうん。まあ、それじゃあ公園にでも行こうか」
「うん。……確かおすすめの場所なんでしょ?」
「そう。な、柊里?」
「そうです……」

 普段とは違いしおらしい柊里の口から出てきたのは、元気のない敬語。
 そして、その目は……少なくとも、好意的には見えない。偏見があるかもしれないけれど。

「あなたが冬青の妹の柊里ちゃんね? 始めまして、千春さんと大誠さんにお世話になってます、早乙女葵です」

 ちなみに、千春さんが早乙女のおばあさんで、大誠さんは早乙女のおじいさんだ。

「時雨柊里です。よろしくお願いします……」

 なんとも締まらない、二人の初対面だった。


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