転生したけど捨てられそうなので、兄妹で楽しく生きることにします~超チートな家出兄妹は辺境で幸せ家族ができました~
 できることならば、もう伯爵家に引き上げてもらいたいのだが、追い払うにはどうしたらいいだろうか。
 だが、今日は女性の様子がいつもとは違うように思えた。
 いや、アーゲルやユリアを気にしているのはいつものことなのだが、いつも感じる『なんとか伯爵家に戻るよう説得してやろう』という意思が感じられないと言うか、別の思惑があるように見えると言うか。

「……にいちゃ」

 ユリアは、アーゲルの腕を引いた。アーゲルはうなずき、女性の方へちらりと目を向ける。

「……あっ!」

 野菜を切っていた彼女の口から、大きな声が出た。

「どうした?」
「指を切ってしまいました……すみません、治療してきます」

 手が滑ったのか、野菜ではなく自分の手を切ってしまったようだ。上役に向かってぺこりとお辞儀をした彼女は、ハンカチで手を押さえて小走りに去る。

(……注意力散漫)

 スパイならば、もっと注意深く周囲の様子をうかがわなければならないのではないだろうか。手を切っている場合ではないはずだ。

「うん、工場の稼働状況は、辺境伯様と相談してみるね」

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