クロとシロと、時々ギン

去り行く背中を追いかける(1)

 シロ先輩が私の名前を呼んだ。胸がいっぱいで何も言えずにいると、また名前を呼ばれた。少し切なげな響きに胸が疼く。
 今、私はどんな表情をしているだろう。きっとシロ先輩の姿が眩しすぎて、頬が緩み切っているに違いない。

 シロ先輩はそんな私の様子を見て小さく笑い、肩に手を置いた。真っ直ぐに私を見つめてくる。
 微かな期待が頭をよぎる。少しだけ、身体が固くなる。

 しかし、その期待はあっけなく打ち消された。
 私の肩を軽く叩くと、「じゃあな」と短い言葉だけを残してシロ先輩は踵を返した。
 遠ざかっていく後ろ姿を、私は呆然と見送る。

(ああ、そうだった。こういう人だった)

 勝手に期待したのは自分だ。それでも今日は、なぜだか酷く寂しかった。

 考えるより先に身体が動く。シロ先輩の後を追いかける。
 その腕を掴んだ。シロ先輩が驚いて振り返る。
 私は腕を掴んだまま、シロ先輩の目をじっと見つめた。何か言わなければと思うのに、言葉が出てこない。

 シロ先輩も何も言わない。ただ、黙って私の言葉を待ってくれているようだった。
 しばらく沈黙が続いた後、ようやく口から出たのは、自分でも思いがけない言葉だった。

「行かないでください。側にいてください」

 言った瞬間、後悔が押し寄せる。子供みたいなことを言ってしまった。
 シロ先輩が驚いた顔のまま固まっている。

(まずい。困らせてしまった。どうしてこんなことをしてしまったのだろう)

 自分の行動が信じられず、途方に暮れる。

(嫌われただろうか。気持ち悪いと思われただろうか)

 そんなことをグルグルと考えていると、突然シロ先輩が笑い出した。
 困惑している私に向かって、シロ先輩はニヤリと笑って見せる。意地悪そうな笑顔にドキッとする。
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