クロとシロと、時々ギン

シロヤギさんからの手紙(6)

 『初恋』なんて淡い言葉は、傍若無人で粗雑なこの人にはまったく似合わない。
 そう思いながら横を見れば、シロ先輩は完全に机に突っ伏して涎の海を作っていた。

「シロ先輩の初恋……ミスマッチすぎて、逆に気になる」

 真顔でぼそりとつぶやいた私の言葉を、白谷吟はしっかり拾った。

「僕は、史郎より矢城さんの初恋の方が気になるよ」
「えっ?」

 驚いて視線を戻すと、白谷吟は飄々と酒を煽っていた。
 実はこの人も、けっこう酔っているのかもしれない。
 でも、見るからに酒に飲まれているシロ先輩とは違い、白谷吟は一見そうは見えない。そこがスマートで、やっぱり“爽やか”という言葉が似合う人だなと思う。

「矢城さんの初恋相手は、どんな人だったの?」

 ニコニコと話題を振ってくる白谷吟に、私は顔の前で両手の人差し指をクロスさせてバッテンを作った。

「教えませんよ~」
「あはは。そうか。残念。じゃあ、矢城さんは小さい頃、どんな子どもだった?」

 残念と言いながらも特に食い下がる様子もなく、こちらを不快にさせない。それでいて、さりげなく話題を変えて会話を続ける白谷吟のスマートさに、多くの女性が放っておかないわけだと納得する。

「特に面白くないですよ? 至って普通です。元気印が取り柄ってわけでもないですが、それなりに元気で明るくて。クラス全員が友達ってわけでもないけど、それなりにみんなと仲がいい、そんな子どもでした」

 至って普通。
 それは、私を表すのに一番しっくりくる言葉だ。何かに秀でているわけでもなく、ただ平坦に生きている。だから、自分のことを聞かれると、少し困ってしまう。

「友達も、白谷先輩とシロ先輩のような関係の人はいませんし……。いわゆる、浅い付き合いしかしていないので……」

 話しているうちに、なんだか自分が人生の上っ面だけをなぞっているような気がして、恥ずかしくなった。思わず、言葉が尻すぼみになり、俯いてしまう。
 そんな私に、さっきまでの明るさとは違うワントーン落ち着いた声で白谷吟が語りかけてきた。

「僕もそうだよ」
「僕も、矢城さんと同じ。いわゆる“みんなの中の一人”だった。だから今、同級生たちの記憶に残っているかどうかは分からないなぁ」
「白谷先輩がですか? 昔から人気があるのかと」

 私の言葉に静かに首を振り、白谷吟はニコリと微笑んだ。
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