クロとシロと、時々ギン

シロヤギさんからの手紙(7)

「昔ね、みんなの中に埋もれてしまうのが嫌で、無理矢理自分を大きく見せていた時期があったんだ。そんなとき、史郎からある言葉をかけられてね。それで、肩の力が抜けたんだ」
「それはどんな言葉だったんですか?」

 白谷吟は、絶対的な信頼を込めた眼差しをシロ先輩に向けながら、静かにその言葉を口にした。

「『無理しても、それは本当の吟じゃないよ』って」
「それって……!」
「昔、流行ってた漫画のセリフ。それを史郎が大真面目な顔で僕に言ったんだ」

 ふふっと笑う白谷吟の言葉は、私の耳には入ってこなかった。

「私も、その言葉を……知っています」

 ぼんやりとつぶやいた私に、白谷吟はおかしそうに口元を緩めた。

「矢城さんも、史郎に同じことを言われたのかい?」
「……いえ……私は、その言葉をくれた友人が誰なのかを知らないんです」
「どういうこと?」

 白谷吟は不思議そうに首を傾げた。

 その言葉をもらうまでの私は、八木少年と同じように人見知りが激しく、人とうまく話せない子どもだった。自分の気持ちを話せるのは、お気に入りのぬいぐるみだけ。
 特にお気に入りだったのが、ヤギが郵便配達員に扮した人形だった。なぜそれが好きだったのかは覚えていない。けれど、「シロヤギさん」と呼び、片時も手放さなかった。どこへ行くにも持ち歩いていたことをよく覚えている。

 そんなお気に入りのシロヤギさんを、一度だけ紛失したことがあった。
 近所の神社で行われた夏祭りの帰り道。いつものように肩から下げていたポシェットに、シロヤギさんが入っていないことに気づいた。ポシェットのファスナー部分から顔を出すように入れていたシロヤギさんを、どこかで落としてしまったようだった。
 泣きじゃくる私に、両親は「別のものを買ってあげる」と言ってくれたけれど、どうしてもシロヤギさんでなければ嫌だった。

 翌日、一人で神社の周辺や境内を探し歩いた。いつものひっそりとした境内とは違い、あちこちに祭りの名残が残っていて、それらを片付ける大人たちの姿もあった。その人たちに声をかけていれば、早く見つかったかもしれない。でも、当時の私にはそれができなかった。
 一人でずいぶん長いこと探し回った。しかし見つからない。疲れ果てた私は、もう見つからないのではないかとガックリしながら、ベンチに腰を下ろした。
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