優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
席に戻った時、一ノ瀬君は向かいの席に深く腰掛け、ページを捲っていた。長くて綺麗な指の影が白い紙に落ちる。その横顔はオフィスで見る厳しいものとは違い、穏やかで柔らかい印象を抱かせる。
私が戻ったことに気がついたのか、本を閉じて私を見上げた彼。いつもなら見下ろされるが、座っている一ノ瀬君と立っている私は、普段とは逆の視点で互いのことを見ていた。
パァッと顔を明るくする一ノ瀬君に、一周回って感心する。
「一ノ瀬君って」
「はい」
「私のこと、好きすぎじゃない?」
自分でも何を言っているかと思うが、自意識過剰ではないことが明らかなほど率直な愛を感じてしまう。私の言葉に、一ノ瀬君は当然のように頷いた。
「はい。好きですよ」
「…もっと恥じらいとかないわけ?」
「多分、先輩が思ってる何十倍も僕は先輩のことが好きですよ。これでも抑えてる方です」
時間が止まった。
遠くでカップが触れ合う小さな音がした。ジャズのピアノが1音、低く響く。店内には様々な音が溢れ返っているはずなのに全てが朧げになり、自分の鼓動が1番大きく聞こえた。