優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 よく分からないまま寝室に戻り、ベッドの縁に腰かける。スマホを見る気にもなれず、ただただ扉を見つめて待っていた。15分くらい経ったころ、扉が静かに開いた。
 相変わらず眼鏡をかけている一ノ瀬君は、座っている私を見ると顔を顰めた。

「お待たせしました。…って、何で横になっていないんですか?」
「ぁ…なんでだろ」
「もう。まだ万全じゃないんですから、もう少し身体を気遣ってあげてください」

 そう言って、眼鏡を外した彼はサイドテーブルに置いた。

「眼鏡、似合うんだね。いつもと雰囲気変わるからびっくりしちゃった」
「急に何ですか」
「さっき思ったけど伝え忘れてたの」
「慣れないこと言ってないで横になってください。ほら、失礼しますよ」

 マットレスが少し沈む。彼がベッドに上がったのだと理解するのに、そう時間はかからなかった。

「先輩も寝ましょ」

 彼は布団に入りながら呟いた。彼に倣って私もベッドに横になる。

 ベッドは広い。2人で寝ても、窮屈さはまったくない。
 自然と背中合わせの形になる。少しだけ距離があるのに、体温はちゃんと伝わってきた。安心する人の気配。それだけで、さっきまでざわついていた心が、ゆっくり落ち着いていくのを感じた。

(……あったかい)

 背中越しのぬくもりに、目を閉じる。さっきまであんなに寝付けなかったのに、どんどん思考が微睡んでいく。

 久しぶりに、本当に久しぶりに、私は穏やかな気持ちで眠りに落ちていった。
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