優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 言った瞬間、空気が止まった。
 一ノ瀬くんが固まる。そして、

「はぁーーー……」

 深いため息を吐かれてしまった。その反応に、胸がキュッとなる。

(やっぱり引かれた…?)

 『仮恋人』だとしても限度があるというもの。今更ながら怖気づいてしまい、耐えきれないまま口を開く。

「ご、ごめん、やっぱり無しってことで__」
「先輩」

 途中で遮られる。彼は片手で顔を覆い、しばらく黙っていた。何かを必死にこらえているようにも見える。けれど、私にはその理由が分からない。

「…ちょっと待てますか?」
「え?」
「寝る準備をしてきます。すぐに寝室に行くので、先に入って待っててください」

 低い声で言われてしまう。ぎこちなく頷けば、優しく頭を撫でられた。そのままリビングを出て行く一ノ瀬君。残された私は、ぽかんとするしかなかった。
 
(……いいの?)

 そんな素朴な疑問が音になることはなかった。
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