優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
 発売から3ヶ月。売上は当初の予測ラインを大きく上回り、社内の業績報告会では『ここ数年で最大の成功事例』として取り上げられるまでになった。数字の推移は右肩上がりを描き続け、もはや一過性のヒットではなく、確かな成果として社内外に認識され始めていた。

 当然、その評価は私たちのチームにも向けられた。役員会では、常務が改めてこう語ったという。

__今回の成功は、白石リーダーの現場感覚と一ノ瀬くんの分析力。その両輪が見事に機能した結果だ。しかしそれだけではなく、難しいプロジェクトに根気よく向き合い続けたプロジェクトメンバー全員の努力があってこその成果に違いない。

 その言葉は、あの日廊下で耳にした評価とはまるで違っていた。同じ人の口から発せられたとは思えない程に、その響きは誠実で真っ直ぐだった。

 プロジェクトチームのメンバーの名前が社内表彰の候補に挙がるまで、そう時間はかからなかった。控えめながらも温かい空気に包まれたその場で皆が自然と笑い合っている光景を見ていると、この絆そのものが1つの成果のように思えた。

 有り難いことに、その輪の中心にいたのはリーダーとして走り続けてきた私だった。けれど、不思議と浮かれた気持ちは湧いてこない。ただ胸の奥にじんわりと広がる静かな達成感だけが、確かな重さを持ってそこにあった。

 新人時代から積み上げてきたもの。
 迷いながらも選び続けてきた判断。
 現場に向き合い、学び続けてきた日々。

 それら1つ1つがようやく形となって実を結んだのだと、今なら素直に受け止めることができる。

 そして何より、私の仕事を誰よりも理解して同じ景色を見ようとしてくれる後輩が、すぐ隣にいてくれた。
 だからこそ、この成功は私1人で掴み取ったものではなく、同じ時間を走り抜けた、メンバー全員で手にした成果だったのだと思った。
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