優秀な後輩で私も嬉しく思うので、どうぞ『先輩離れ』してください
「それじゃあ、皆さん! お疲れ様でした!」
「「「「「 お疲れさまでした~!!! 」」」」」

 音頭に応じて、一斉にグラスが持ち上がる。照明に照らされたビールの泡がきらりと揺れ、ジョッキ同士がぶつかる軽やかな音が心地よく広がった。冷えた一口を喉に流し込むと、体の奥に残っていた緊張がゆっくりと解けていく。ようやく全てが終わったのだと、遅れて実感が追いついてきた。

 店内はほどよく騒がしく、あちこちのテーブルで笑い声が絶えない。肩の力を抜いたメンバーたちが、思い思いにグラスを傾けながら語り合っている。その光景を眺めていると、この数ヶ月の苦労が確かな形になって報われたのだと自然に思えた。

 完全任意参加のはずだったこの打ち上げは、結局誰1人欠けることなく集まっている。元々顔見知りの多いチームとはいえ、この人数での宴会は今の時勢では珍しい。それでも誰も気に留めないのは、今回の成功がそれだけ大きく、同じ時間を共有してきた全員が、この瞬間を分かち合いたいと思っているからなのだろう。

 料理が運ばれ、会話が弾み、場の熱気がほどよく回り始めた頃。自然な流れのように、視線と話題がこちらへと集まってくる気配を感じた。

「白石さんの粘りと一ノ瀬くんのサポート! 最高のコンビだったよ!」
「本当に! 息が合いすぎて感動しちゃいましたよ!」
「大袈裟よ。でも、ありがとう」

 軽く受け流すように返すと、すぐに周囲から笑いが起こる。けれど、その言葉の奥にある本音が伝わってくるからこそ、どこかくすぐったい。

「いやいや、大袈裟じゃないですって! 途中から完全に阿吽の呼吸でしたよね!」
「分かります。毎度の会議、見てて気持ちよかったですもん」
「一ノ瀬くんがスッと補足入れて、白石さんがそれを広げる流れ。完璧でしたよね」

 次々に重ねられる言葉に、思わず苦笑が漏れる。確かに、あの瞬間は言葉を探す必要すらないほど、自然に噛み合っていた。

「…それは、一ノ瀬くんがちゃんと拾ってくれてたからよ。私は好きに話してただけ」
「またまた~、そうやってすぐ譲るんだから」
「でも実際、あそこまで信頼して任せられるのってすごいですよね」
「たしかに。あれだけ息合ってたら、もう__」

 そこで一瞬、言葉を区切るような間が生まれる。誰かがにやりと笑ったのが視界の端に映った。
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