トップアイドルは白衣の天使に恋をする
陽貴くんの腕の中にいることが、さっきまでとは全然違う意味を持っていて――

心臓がうるさい

でも、嫌じゃない

むしろ、安心する

「……ほんとに?」

少しだけ低い声

確認するみたいに、顔を覗き込まれる

「……うん」

今度は迷わず頷く

すると、ふっと小さく笑った

「じゃあ、もう遠慮しない」

「え?」

次の瞬間

頬に、そっと触れられる

びくっと肩が揺れる

「そんなびっくりする?」

少し意地悪な声

「だって……」

言い返そうとしても、うまく言葉が出てこない

近い

距離が近すぎる

「慣れて」

さらっと言われる

「これからもっと近くなるんだから」

――ドクン

顔が一気に熱くなる

「……む、無理……」

思わず小さく呟くと、くすっと笑われる

「無理じゃない」

即否定

「ゆっくりでいいから」

その言い方が、少しだけ優しくて

さっきまでの強引さとは違う

「……うん」

小さく頷くと、もう一度軽く頭を撫でられる

その仕草が自然すぎて、余計にドキドキする

「今日さ」

ふいに、陽貴くんが少しだけ真面目な声になる

「ほんと焦った」

「……え?」

見上げると、少しだけ苦笑い

「現場での顔見た時」

「あ……」

思い出して、少しだけ視線を落とす

「今にも消えそうだった」

静かな声

「……そんな顔してた?」

「してた」

「だから、ほっとけなかった」

その言葉に、胸がぎゅっとなる

「……ありがとう」

さっきも言ったのに、また出てくる

それくらい、伝えたいと思った

陽貴くんら少しだけ呆れたように笑う

「その代わり」

「え?」

「ちゃんと頼って」

まっすぐな目

「彼氏なんだから」

――また、心臓が跳ねる

彼氏

その言葉の破壊力が強すぎる

「……うん」

小さく頷くのが精一杯

すると、満足そうに少しだけ笑う

「よし」

ぽん、と軽く頭を叩かれる

「今日はもう休んで」

優しく髪を撫でられる

「明日また考えればいい」

梓と同じことを言われて、少しだけ笑いそうになる

「……うん」

「ちゃんと寝れる?」

「…子どもに言うみたい、、」

思わず言い返すと、くすっと笑われる

「そういうとこ」

「なに」

「余裕出てきた」

からかうような声

「……もう」

顔が熱くなるのを感じながら、少しだけ視線を逸らす

でも

さっきまでの重たさは、もうない

完全に消えたわけじゃないけど

一人じゃないって思えるだけで、こんなにも違うんだって分かる

「じゃあ、俺帰るから」

ふいに立ち上がる

「え」

思わず声が出る

もう少し一緒にいたい、なんて思ってしまった自分に驚く

「なに、その顔…紗凪ちゃんは俺ともっと一緒にいたいのかな?」

ニヤッと意地悪く微笑む

「いや、別に……」

慌てて否定するけど、絶対バレてる

「……また来るから」

少しだけ優しい声でそう言われる

「すぐ会えるし」

当たり前みたいに言う

その言葉に、少しだけ安心する自分がいる

「……うん」

玄関まで見送る

ドアの前で、少しだけ立ち止まる

「紗凪」

名前を呼ばれて、顔を上げた瞬間

軽く、額に触れるもの

「……っ」

一瞬、何が起きたか分からない

「おやすみ」

さらっと言って、ドアを開ける

「ちょ、今……」

言いかける前に、振り返る

「慣れてって言ったでしょ」

ニヤッと笑う

「……もう……」

顔が一気に熱くなる

そのまま出ていく背中を見送りながら

私はドアにもたれかかる

「……ずるい」

小さく呟く

でも


心はすごく軽くなっていて

口元は、少しだけ緩んでいた
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