トップアイドルは白衣の天使に恋をする
「……これは、看過できる問題ではありません」

院長の低く重い声が、会議室の空気を引き締める。

先ほどまでのざわめきが、すっと静まる。

「医療現場における意図的な妨害行為――極めて重大です」

一語一語が、はっきりと響く。

「直ちに院内規定に基づき、正式な調査と処分手続きに入ります」

その言葉に。

胡桃の表情が、わずかに歪む。

さっきまでの余裕のある笑みが、ほんの少しだけ崩れる。

でも――もう遅い。

「また、本件については外部機関への報告も含め、慎重に対応します」

空気が、さらに重くなる。

誰も軽く扱えない。

それほどの事態。

――

「一ノ瀬さん」

名前を呼ばれる。

はっと顔を上げる。

看護部長が、まっすぐこちらを見ている。

「今回の件について、あなたに重大な過失があったとは現時点では判断しません」


胸が、ぎゅっとなる。

「むしろ、限られた状況の中で適切に対応しようとした点は評価されるべきです」

その言葉に。

涙が、また込み上げてくる。

でも、今度は――さっきとは違う。

「最終的な判断は調査結果を待ちますが」

一度、言葉を区切る。

「フライト資格については、継続を前提に再評価とします」

――その瞬間。

視界が、滲む。

……戻れる

まだ確定じゃない。

でも。

ゼロじゃない。

「はい……」

声が震える。

それでも、しっかりと頷く。

「ありがとうございます」

深く、頭を下げる。

――

「本日の会議は以上とします」

院長の一言で、張り詰めていた時間が終わる。

一気に、空気が動き出す。

椅子の音。

資料をまとめる音。

人が立ち上がる気配。

その中で。

私は――しばらく動けなかった。

ただ、座ったまま。

ゆっくりと呼吸を整える。

……終わった

長かった。

怖かった。

でも――

乗り越えた。
< 239 / 329 >

この作品をシェア

pagetop