トップアイドルは白衣の天使に恋をする

第9章 完全復帰

あの日から、あっという間に1週間が過ぎた。

慌ただしく過ぎていく毎日。

でも、その中でも。

私は少しずつ“いつもの自分”を取り戻していた。

ICUで患者さんと向き合って。

仲間たちと声を掛け合って。

忙しさに追われながら働く時間が、どこか心地よかった。

そしてついに、その日が来た。

フライト再開の日。

まだ薄暗い朝。

フライトユニフォームに袖を通す。

鏡に映る自分を見つめながら、そっと深呼吸した。

胸が緊張で少し苦しい。

でも、不思議と逃げたい気持ちはなかった。

むしろ。

“やっと戻れる”

そんな気持ちの方が大きい。

携帯が震える。

画面を見ると、陽貴くん。

その文字だけで、少し肩の力が抜ける。

「もしもし?」

『おはよ』

少し眠そうな声。

「起きてたの?」

『紗凪のフライト復帰の日だぞ』

『寝れるわけない』

思わず笑ってしまう。

陽貴くんは昨日深夜まで仕事だったはずなのに。

「ちゃんと寝ないとだめだよ?」

『紗凪にだけは言われたくない』

「うっ……」

確かに人のこと言えない。

すると少しだけ、優しい沈黙。

『……緊張してる?』

その声があまりにも柔らかくて。

胸の奥に触れてくる。

「……少しだけ」

正直にそう言うと。

『大丈夫』

『紗凪なら絶対大丈夫』

『俺、知ってるから』

真っ直ぐな声。

迷いのない言葉。

涙が出そうになる。

『それに』

少し笑う気配。

『患者さんも絶対安心する』

『紗凪みたいな看護師いたら』

「……陽貴くん」

『ん?』

「朝から甘やかしすぎ」

そう言うと。

電話越しにくすっと笑う声。

『今日は特別』

『俺の自慢の彼女のフライトナース復帰の日だから』

胸が熱くなる。

本当に、この人はずるい。

「……頑張ってくる」

『うん』

『無理はすんなよ』

『あと帰ったらいっぱい褒める』

「ふふ……なにそれ」

『約束』

その声に自然と笑みがこぼれた。

電話を切って。

私はゆっくりヘリへと向かった。
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