トップアイドルは白衣の天使に恋をする

第4章 会えない時間

紗凪side


ナースステーションの時計は、深夜2時を回っていた


規則的に鳴るモニター音
キーボードを打つ音
かすかに聞こえるナースコール

いつもと変わらない夜

それなのに今日は、少しだけ長く感じる

「一ノ瀬さん、休憩入ってください」

「はい、ありがとうございます」

小さく息を吐いて、椅子から立ち上がる

ロッカーに向かい、スマホを取り出した

画面をつけると――

「撮影、やっと終わった」

陽貴くんからのメッセージ

時刻は、30分前

…あ、今頃帰り道かな

ほんの少し、胸がきゅっとする

タイミングが、合わない

分かってる

お互い忙しいってことも、簡単に連絡が取れないことも

それでも――

ほんの少しだけ、寂しいって思ってしまう

「私は今から休憩ですおつかれさま」

短く打って、送信

既読は、つかない

分かってたのに、画面を見つめたまま、少しだけ指が止まる

…寝ちゃったかな

それとも、まだ仕事の途中?

それとも、スタッフさんたちと話してるのかな――

そんなことを考えてしまう自分に、小さく苦笑いする

「……なに考えてるんだろ、私」

スマホを胸に当てて、目を閉じた

疲れているはずなのに頭の中に浮かぶのは、あの人のことばかり


優しく笑う顔も、少し意地悪に見つめてくる目も全部、はっきり思い出せてしまう

……会いたいな

ぽつりと浮かんだ本音に、自分で驚いて、すぐに目を開ける 


違う


そんな簡単に言っていい関係じゃない

彼はアイドルで、

私はただの看護師で

ちゃんと、分かってるはずなのに

――でも 

あの夜、あの部屋で感じた温もりが


まだ消えていない



スマホをもう一度見る

画面は、変わらないまま

既読も、返信も、ない

それなのに――

不思議と、嫌な気持ちにはならなかった

「……がんばってるんだろうな」

小さく呟く

自分も、同じだから

命と向き合うこの場所で、手を抜くことなんてできないように、

彼もきっと、全力で仕事に向き合ってる

だから――

「……私も、がんばろ」

立ち上がると、さっきより少しだけ足取りが軽い

会えない時間が続いても、離れているわけじゃない

同じ時間を、違う場所で、それぞれ必死に生きている


それだけで――ちゃんと繋がってる気がした


ナースステーションに戻る直前、ポケットの中のスマホが、かすかに震えた


びくっとして、思わず立ち止まる

急いで画面を開く

そこには――

「今帰ってる紗凪ちゃんも無理しないでね」

短い一文

それだけなのに、胸の奥が、じんわりと温かくなる

「……もう」

思わず小さく笑った

さっきまでの寂しさが、嘘みたいに消えていく

「ずるいなぁ…ほんとに」

ぽつりと呟いて、画面をそっと閉じた

さぁ、戻ろう

また、それぞれの場所へ

でも次に会える日まで、ちゃんと頑張ろうって思えたから
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