マフラーの赤い糸
 そんなに高いものは買えないので、ショッピングセンターの紳士服売り場のワゴンにある商品を、私は一つ一つ取り出して見ていた。 
 そして、私の中で、絶対これが春翔君に似合うに違いない! と思う一本のマフラーを手に取る。ところが、そのマフラーを気に入ったのは私だけじゃなかったようだ。私が掴んでいるマフラーの端を申し訳なさそうに掴んでいたのは、まさかの松坂春翔君、その人だった。

「きゃ! え、えっと松坂君……」

 私が困っていると、春翔君も困ったような笑顔を浮かべていた。

「奇遇だね。岸田さんが紳士用のマフラーが欲しいってことは……誰かあげたい人がいるんだよね?」
「まあ、はい。そうです」

 私と春翔君は、マフラーの両端を持つようにして会話を続けていた。

「お父さんとか兄弟に?」
「え?」 

 春翔君は、私の返答に、

「違うの?」

 と驚いたように言った。

「えっと、うん。ちょっと他にあげたい人がいるんだ」

 私の言葉に春翔君は少し意外そうな顔をした。

「そうなんだね」
「松坂君は? このマフラー、誰かにあげるつもりなの?」
「いや、僕は最近マフラー失くしちゃって。寒いから欲しいと思って」

 マフラーを失くたという言葉に、私の胸がすこし痛む。でも。

「じゃあ、自分に買うんだよね?」

 私は春翔君に確認した。自分に買おうとしたものなら、春翔君の好みの柄に違いない。

「うん、そう」

 私たちがワゴンの前で会話していると、

「ちょっといつまでそこにいるの?」

 と迷惑そうに後ろにいたおばさんに声をかけられた。

 私たちは顔を見合わせる。マフラーを先に離したのは春翔君だった。

「あげたい人がいるんでしょ? 僕はまた探すから」

 そう言って私に一度笑顔を見せると、春翔君はやっぱり寒そうに首をすくめて紳士服コーナーを出て行こうとする。
 私は思わず、

「待って!」

 と声をかけた。

「少しだけ待ってて!」

 私は急いでサービスカウンターまでマフラーを持っていくと、ラッピングをしてもらって春翔君のもとへ走った。

「これ……」

 春翔君にラッピングされたマフラーを渡す私の手は震えていた。

「え? 僕に、なの?」
「そ、そのね。特別な意味はなくて、寒そうに首すくめてたから気になっちゃって。それでマフラーあげたいと思ってたんだ。松坂君がいたおかげで好みのマフラーが分かって良かった」

 私は言い訳するように早口で言った。

 春翔君は驚いた顔をしていたけれど、

「本当に僕がもらっていいの? 助かるな。ありがとう。岸田さん」

 と言って目を三日月のようにして微笑んだ。

「早速あけて使っていい?」
「もちろん!」 

 春翔君は包み紙を丁寧に開くと、先程のマフラーを取り出して、自分の首に巻き付けた。

「あったかい」

 幸せそうに笑う春翔君を見て、私は罪悪感半分、嬉しさ半分。

「本当にありがとう、岸田さん」

 私は、

「喜んでくれて良かった! 12月だし、早めのクリスマスプレゼントが降ってきたとでも思って」

 と訳のわからないことを言ってしまった。

「岸田さんて不思議な人だね。じゃあ、また学校で」 


 マフラーをつけて首をすくめずに歩いて行った春翔君を見て、これで良かったんだよね、と自分に言い聞かせる。好きだとは伝えられなかったけれど、マフラーを渡せたし、春翔君のマフラーは手元に残ったのだから十分だ。

 翌日、私があげたマフラーを首に巻いて登校してきた春翔君に、一人の男子が、

「お、新しいマフラー? あったかそうだな! 俺にも貸せよ」

 と絡んでいるのが見えた。私は不安になって遠くから見つめる。

「これはダメ。貰いもので大切なものだから」

 春翔君はそう言ってマフラーを貸す事はなかった。その様子に私は安堵と小さなときめきを覚えた。

 ーー大切なものだから。

 春翔君の言葉が頭の中で何度もリピートした。
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