あの娘と私

美佐子

 「木寺さん」

 会社から出ようとしていた時に声をかけられ、私は驚いて振り返った。
 この声は田村さんだとわかったからだ。

 「突然ごめんね」
 いつも見ていた大好きな笑顔で言われて、私は、
 「いえ、大丈夫です」
 と緊張気味に答えた。
 「木寺さんが映画が好きだって佐々木君から聞いたんだ」

 私は一瞬黒いものが心を燻るのを感じた。趣味が私と同だとは話したって言ってたけど、涼はそれが映画だとまで話してたんだ。私と涼だけの大切な共通の趣味なのに。

 「え、あ、うん。そうなんだ。映画好きなの」
 田村さんは私ににっこりと笑いかけた。
 「私、木寺さんと話してみたいって思っていたんだ。だから、この機会に木寺さんに映画のこととか聞いてみようかなと思って」

 田村さんの笑顔に、私はなんだか自分がひどく醜いもののように感じた。田村さんが悪いわけでないのに、こんな気持ちでいたら失礼だと思った。

 「そうなんだ。私も田村さんと実は話してみたいなと思っていたんだ」
 「そうなの? もっと早くに声かけてみれば良かったね」

 私たちはその日、近くのカフェでお茶をした。


 「涼のおかげで田村さんと話ができたんだ~」

 単純なもので、田村さんとの時間が思いの外楽しかった私は、帰宅して、涼に早速電話で報告した。

 「何、田村さんと話したかったの、泰子?」
 涼が驚いた声で言った。

 「うん。実は密かに憧れている人だったの」
 「憧れ?」
 「うん。女性として素敵だなって」
 「ふーん。全然知らなかった。
 それなのに嫉妬してたの?」
 涼は不思議そうだ。

 「それは別。だって、素敵な女性だからこそ、涼が惹かれたら困ると思うんだもん」
 「そういう思考回路だったんだ」
 「うん」
 「だから大丈夫だって」
 「どうかな? やっぱり話してみてさらに素敵な子だなって思ったから」

 私の言葉に涼は、
 「俺ってそんなに信頼ない?」
 と少し悲しそう。

 「たまには俺を信じてくれよな~。他の女子がどうじゃなくて、俺は泰子が好きなんだから」

 涼は恥ずかしげもなくそういうことを口にする。私は熱を持った頬に手を当てた。電話で良かった。こんな緩んだ顔を見られずに済む。
 「うん……。ありがとう」

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