アンコールはリビングで
「……はぁ」

私は大きく息を吐き、熱を持った頬を両手で包み込んだ。
瞬時に「彼女モード」のスイッチを切らないと、心臓が持たない。

ここからは戦場だ。

手早く食器を洗い、部屋を片付け、メイクをする。
鏡に映るのは、どこにでもいる中堅会社員の顔。

さっきまで、この国で一番輝く男に溺愛されていたなんて、自分でも信じられない。

「……よし、行くか」

パンプスを履き、私も家を出る。
駅へ向かう道すがら、スマホを開くと、ニュースアプリのトップに彼の名前があった。

『早瀬湊、待望のニューアルバム発売決定』

画面の中の彼は、洗練された衣装を身に纏い、クールに微笑んでいる。

< 11 / 910 >

この作品をシェア

pagetop