アンコールはリビングで
リビングの空気が、ドラマの緊張感からふっと解き放たれる。

「……はー……」

私は手に持っていたマグカップ――中身は舞花と同じカフェラテではなく、いつもの白湯だけど――をテーブルに置いた。

隣では、湊が少し身体を起こし、クッションの位置を直している。

「……なんか、今の舞花の顔」

私はぽつりと呟いた。

「昔の私を見てるみたいだったな」

私の独り言に、湊が「ん?」とこちらを向く。
スウェットの袖を捲り上げながら、彼は不思議そうに眉を寄せた。

「昔の凪 ?……そうか? 昔から、なんでも器用にこなす優等生タイプかと思ってたわ。あんなふうに浮くことなんてあったのかよ」

湊の言葉に、私は苦笑する。
彼の知っている過去の私は、あくまで「仕事ができるディレクターの水沢凪」だ。

社会人になってからの私は、確かに「擬態」が上手くなったのかもしれない。
周りの空気を読み、求められる「正解」を出し続けること。それが仕事だったから。

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