アンコールはリビングで
「うーん……社会人になってからはね。でも、学生の頃は違ったよ」

私は視線をテレビ画面から外し、自分の掌を見つめた。

「周りが盛り上がってる話題に入り込めなくて、でも水を差すのも怖くて。ずっと、自分だけチューニングが合ってないラジオみたいだなって思ってた」

「チューニング?」

「そう。みんなには綺麗に聞こえてる音楽が、私にはどうしても雑音混じりにしか聞こえなかったり……逆に、みんなが聞き流すような音が、私にはたまらなく心地よい音に聞こえてたり……」

そう言うと、湊は何も言わずにじっと私を見つめた。
その瞳は、何かを探るように深い。

あの頃の私には、世界が少しだけうるさすぎた。
そして、私の「好き」という音は、誰にも届かない周波数で鳴っていた気がする。

「……ちょっと、思い出しちゃった。私が自分の『設計図(ブループリント)』を書き直そうって決めた、あの日のこと」

私の記憶の針が、ゆっくりと巻き戻されていく。

湊と出会うよりもっと前。
私がまだ、自分の「耳」を持て余していた、学生時代のあの日々へ――。

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