アンコールはリビングで
ただの仕事相手だった俺が、初めて彼女に『早瀬湊』という一人の男の素顔を見つけられ、深く心を通わせるきっかけとなった、あの非常階段がある場所だ。

「……もう、あの夜、非常階段で早瀬くんの歌声を聞いてから、1年以上経つんだね……」

彼女が感慨深げに呟く。
見上げる横顔は、あの日と同じように美しくて、でもあの頃よりずっと、俺の心臓を締め付ける。

「……そうっすね。行きましょう」

俺は彼女を促し、屋上庭園へと続くエレベーターに乗り込んだ。
静かに扉が閉まり、箱がゆっくりと上昇を始める。

密室の中、ガラス越しに遠ざかっていく街の灯りを見つめながら、俺の脳裏には、この1年あまりの彼女の姿が、鮮やかな記憶のフィルムのように次々と蘇ってきていた。

< 240 / 601 >

この作品をシェア

pagetop