アンコールはリビングで
4. 秘密の距離と、日常の足音

買い物を終えた私たちは、少しだけ休憩がてら、上層階にあるお洒落なインテリアショップへと立ち寄った。

キッチン用品のコーナーで、色とりどりのマグカップが並ぶ棚の前に並んで立つ。

「あ、これ可愛い。持ち手が丸くて持ちやすそう」

「ん。俺はこっちのマットな質感がいいな」

私が手に取ったオフホワイトのマグカップと、湊が選んだネイビーのマグカップ。
並べてみると、まるで最初からペアとして作られたようにしっくりと馴染んだ。

「これにしよっか。朝のコーヒー飲むのにちょうどいいサイズだし」

「だな。……これで毎朝、凪に美味いコーヒー淹れてやる」

人が行き交う通路で、湊が背後から私に被さるようにして棚を覗き込んできた。

周囲からはただ商品を見ているようにしか見えない絶妙な角度で、彼の手が、マグカップを持つ私の手にそっと重なる。

「……っ、湊、ここお店……」

「誰も見てねぇよ」

耳元に落ちる、低くて甘い声。
重なった彼の手のひらから伝わる圧倒的な熱に、頭の芯がクラクラと揺れる。

彼の体温と香りに包まれながら、私はこのマグカップで一緒にコーヒーを飲む、これからの温かい朝の風景を想像していた。

「一緒に暮らしている」という事実が、こんなにも甘く、幸せな重みを持って胸に響く。

私たちは誰にも気づかれないようにそっと指を絡め合い、新しい日常を彩る二つのマグカップをレジへと持っていった。
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