アンコールはリビングで
3. 決壊の境界線

時計の針が22時を指そうとした、その時だった。

――ガチャリ。
静寂を破り、重たい玄関のドアが開く音がした。

「湊……!」

私はソファから弾かれたように立ち上がり、廊下へと駆け出した。

玄関のセンサーライトが点灯する。

「……はぁっ、……はっ、……」

彼は靴を脱ぐことすらできず、大理石のたたきに立ったまま、重厚な玄関の壁に手をついて激しく肩を上下させていた。

その姿は、まるで目に見えない巨大な重圧に、全身の力だけでギリギリ耐えているかのようだった。

「湊……っ!?」

私が血の気を引かせて駆け寄ろうとすると、彼がゆっくりと顔を上げた。
マスク越しでも異常だと分かるほど、瞳は虚ろで、顔全体が熱で赤く火照っている。

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