アンコールはリビングで
2. 完璧な聖域の構築

帰宅するなり、私は鞄を放り投げてキッチンへと向かい、超スピードで「聖域の受け入れ態勢」の構築に取り掛かった。

まずは、食事。
熱が出て胃腸の機能が落ちている状態でも、負担をかけずに栄養が摂れるメニューが必要だ。

私は土鍋を取り出し、消化を助ける大根おろしをたっぷりと使った、しらすと溶き卵のみぞれ雑炊を作り始めた。

さらに、発汗で失われる水分とミネラルを補給できるように、レモンとハチミツ、天然塩を少し加えた自家製の経口補水液もピッチャーに作って冷蔵庫へ。

冷凍庫に保冷剤と氷枕がしっかり冷えていることを確認し、救急箱から解熱鎮痛剤と体温計を取り出して、ダイニングテーブルの分かりやすい位置にセットする。

リビングの照明は、彼が帰ってきた時に眩しくないよう、少しトーンを落とした間接照明だけにしておいた。

「……よし、準備完了」

時計の針は、すでに21時を回っている。
お昼に送ったメッセージに、既読はまだついていない。

コトコトと弱火で保温されている雑炊の匂いが漂う静かなリビングで、私はひたすらその時を待った。

ドアの向こうで戦っている彼が、ようやく羽を下ろせるこの場所で。

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