アンコールはリビングで
「……ダメなんだ。……ここで凪に寄りかかったら……安心して、この玄関で、倒れちまうから……っ」

「……っ」

「……俺、凪の前でだけは……絶対に、倒れたくない……っ。……だから、頼む。……俺が倒れる前に、ベッドまで、連れてってくれ……」

昨日までは「充電させて」と私に凭れかかってきた彼が、今は異常なまでの執念で「自分の足で立つこと」に固執している。

私の前で「倒れる」という事実そのものを、どうしても自分に許せないのだ。

「……わかった。肩、貸すから」

私は涙を堪えながら、彼の腕を自分の肩に回し、しっかりと腰を支えた。

「……悪ぃ……っ」

服越しに伝わってくる体温は、昨夜の微熱とは比べ物にならないほど、恐ろしいほどの熱を持っていた。

彼の重たい身体を支えながら、ゆっくりと、一歩ずつ寝室へと向かう。

彼がこれほどまでに「私の前で倒れないこと」に固執する理由が分からず、私の心の中はぐちゃぐちゃになっていた。

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