アンコールはリビングで
3. 崩れ落ちた世界

「――っ、凪!?」

玄関の方から聞こえた鈍い音に、俺はリビングのソファから弾かれたように立ち上がり、廊下へと駆け出した。

ここ数日、いや、ここ数週間。俺はずっと、嫌な胸騒ぎに苛まれていた。

連日深夜まで働き、まともに飯も食わず、頬がこけていく凪。

『大丈夫』と笑うその顔は、まるで薄氷の上に立っているようで、いつ割れて落ちてもおかしくないほどの危うさを孕んでいた。

だから今日は、どうしても嫌な予感が拭えなくて、凪が帰ってくるまでリビングの電気をつけて起きて待っていたのだ。

「凪……っ、おい、凪っ!!」

玄関に倒れ込んでいる小さな背中を見つけた瞬間、心臓が凍りつき、全身の血の気が一気に引いていくのが分かった。

「おい、嘘だろ……っ、しっかりしろ!!」

床に膝をつき、慌てて彼女の身体を抱き起こす。
腕の中に収まったその身体は、信じられないくらい軽かった。

そして、夏の夜だというのに、血の通っていない人形のように酷く冷たい。

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