アンコールはリビングで
……正直に言えば、パパラッチ対策の完全個室と客室露天風呂という条件で選んだだけで、そこまで料理の内容を熟知していたわけではない。

だが、ここで「偶然だ」と言うほど野暮な男ではない。

「……まあな。病み上がりだし、凪がずっと『腸活』にハマってるから、気にいるかと思ってよ」

「湊……! 本当にありがとう……! 私、残さず全部食べるね」

大喜びで湯波を口に運び、「ん〜っ、美味しい……!」と心底幸せそうに頬を綻ばせる凪。

自分が選んだもので彼女がこんなに喜んでくれるのが、無性に嬉しい。

彼女が幸せそうにご飯を食べている姿を見るだけで、俺の胸の奥まで温かく満たされていくような気がした。

「ほら、こっちの野菜も美味いぞ。いっぱい食え」

「うんっ。湊も、これすっごくお出汁がきいてて美味しいよ。はい、あーん」

彼女が自分の箸でつまんだ湯波を、俺の口元へと運んでくる。

外のレストランなら、俺がお願いしても恥ずかしがってなかなかやってくれないような甘い仕草も、この密室のプライベート空間だからこそ自然に出てくるのだ。

俺は躊躇うことなくその湯波をパクリと咥え、彼女の指先に軽く唇を落とした。

「……っ、もう、急にそういうことしないの」

「なんだよ、減るもんじゃねぇだろ」

顔を赤くして抗議する彼女を鼻で笑いながら、俺たちは穏やかで、優しくて、どこまでも甘い夕食の時間を心ゆくまで堪能した。

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