アンコールはリビングで
「ほら、冷める前に食おうぜ。いただきます」

凪は静かに手を合わせると、さっそくお味噌汁を一口飲んで、じんわりと感動を噛み締めるように目を細めた。

「ん〜っ、朝ご飯も美味しすぎる……!」

「普段の凪の和食も最高に美味ぇけど……こうやって非日常の空間で、凪と一緒にのんびり食うってのがまた格別なんだよな」

俺の言葉に、凪は少し照れたように「……そうだね」と微笑み、大事そうに温泉湯豆腐を口に運んだ。

身体に染み渡る優しい出汁の味と、新鮮な食材の旨味。
空っぽになっていた胃袋が、喜んで満たされていくのが分かる。

「あー、マジで生き返るわ」

「ふふっ。湊、鮎の食べ方上手だね。骨だけ綺麗に残ってる」

「おう。……うちの母さん、こういう魚の食べ方とか食事のマナー、めちゃくちゃうるさかったからな。ちょっとでも汚く食うと、容赦なく手ぇ叩かれたわ」

「あはは、スパルタだね。……でも、お母さんのおかげで、すごく綺麗だよ」

凪がふわりと微笑むのを見て、俺は少しだけ遠くの記憶を探るような、穏やかな気持ちで綺麗に残った鮎の骨を見つめた。

「まあな。……俺が中学の時にいなくなるまで、ずっと口酸っぱく言われ続けてたから。嫌でも身体に染み付いてんだよ」

「そっか。……きっとお母さんも、今の湊を見たら、すごく喜んでくれると思うな」

「……どうだか。まだまだガキだって笑われるかもしれねぇけど。……ま、今となっては感謝しとくわ」

俺が照れ隠しのようにそう言って残りの鮎を口に運ぶと、凪は愛おしそうに目を細め、自分の温かいお茶を一口飲んだ。

< 477 / 730 >

この作品をシェア

pagetop