アンコールはリビングで
2. 境界線と、表舞台のスイッチ

地下駐車場には、すでに島崎さんの運転する送迎車が停まっていた。

「……おはようございます」

車に乗り込み、俺はできるだけ普段通りの、爽やかな声を張ろうとした。

だが、喉の奥に張り付いた熱のせいで、声はひどく掠れ、たった一言の挨拶だけで息が上がってしまった。

「早瀬くん、おはよう。……大丈夫? なんだか顔色悪いけど」

「あ、はい。大丈夫っすよ。……今日のジャケ写、スタジオ少し遠いんすね」

心配そうにこちらを窺う島崎さんの視線を逸らすように、俺はわざとらしくスケジュールの話題を振った。

島崎さんは少し怪訝な顔をしたが、それ以上深くは追求してこなかった。

だが、その心の中では絶対に『調子悪そうだな、今日の撮影、最後まで持つかな……』と危惧しているはずだ。
この有能なマネージャーは、俺の強がりなんてとうにお見通しなのだから。

< 505 / 759 >

この作品をシェア

pagetop