アンコールはリビングで
(……このままじゃ、ダメだ)

俺は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。

俺が有名になればなるほど、外の世界には敵が増える。
マンションを一歩出れば、俺たちは息を潜めて、他人の視線を警戒し続けなければならない。

どうすれば、彼女に窮屈な思いをさせずに済むのか。

外の世界でも、あのリビングと同じように、凪が安心して無防備な笑顔を見せられる場所を作るには、どうすればいいのか。

思考を巡らせた俺の頭の中に、4月の終わりに2人で藤棚を見に行った、あの日の記憶が蘇った。

島崎さんから借りた、事務所のフルスモークのSUV。

あの分厚いドアを閉めた瞬間、外の喧騒も他人の視線もすべて遮断され、そこには俺たち2人だけの完全な密室ができあがっていた。

誰の目も気にせず、手を繋ぎ、気兼ねなく笑い合える空間。

(……あのリビングと同じ、俺たちだけの『聖域』が必要だな)

外の世界の悪意や視線から凪を守り抜くための、誰にも邪魔されない俺たちだけの空間。

誰もいない控室で、俺は一人、静かに決断を下した。

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