アンコールはリビングで
「……僕は、彼女のことを隠し通すつもりはありません。いつか、きちんと自分の口で公表したいと思っています」

「ああ、それは理解しているよ。我々も君の意思は尊重したい。……だが、今ではないだろう」

「はい」

俺が短く頷くと、志水専務は島崎さんへと視線を移した。

「島崎。すでに各所には手回ししてあるな?」

「はい。編集長には私から直接連絡を入れ、他社のスキャンダル記事とのバーター交渉で、この記事の掲載は完全に見送らせることで合意が取れています。ウェブ媒体への流出もありません」

有能なマネージャーの迅速な対応と、業界トップクラスの大手事務所であるステラミュージックの政治力。

その巨大な力のおかげで、この記事が世に出ることはなくなった。

「……ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。志水専務、島崎さんも、ありがとうございます」

俺が深く頭を下げると、島崎さんは小さく息を吐き、ポンと俺の肩を叩いた。

「早瀬くんが謝ることじゃないよ。……ただ、しばらくは今まで以上に警戒レベルを上げてほしいな。凪さんにも、迷惑をかけないようにね」

「……はい。肝に銘じます」

会議室を出て、1人になった控室で、俺は深くソファに沈み込んだ。

今回は事務所の力で揉み消せた。
だが、あの薄汚いレンズは、確実に俺たちの日常を脅かしに来ている。

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