アンコールはリビングで

Liner Notes 1 凄腕のフィクサーと、それぞれの帰る場所

※ 本編34話の裏側で、マネージャーの島崎がどう動いていたのか。彼自身のプライベートと共に描く、島崎視点のショートストーリーです。

1. 優しいパパと、冷たいゲラ

5月中旬。
ステラミュージック本社のマネジメントフロアは、夏の大型フェスや全国ツアーに向けた調整で、殺伐とした空気に包まれていた。

自席のパソコンで分刻みのスケジュールと睨み合っていた俺は、ふと手を止め、デスクの端に置いたスマホの画面をタップした。

ロック画面に設定されているのは、今年の春に撮った家族写真。

大学時代からずっと俺の隣で笑ってくれている、同い年の最愛の妻・華(はな)。
ヤンチャ盛りで保育園を走り回っている4歳の長男・司(つかさ)と、最近言葉を覚え始めてますます華に似てきた2歳の長女・優里(ゆうり)。

俺の人生のすべてであり、何よりも守るべき宝物だ。

(……よし、今日はなんとか20時には帰れそうだな。華に、ケーキでも買って帰ろうか)

ここ数日、早瀬くんの新曲プロモーションで帰りが遅くなっていたため、ワンオペで子どもたちを見てくれている華には頭が上がらない。

いつも文句ひとつ言わず、「優太の仕事、応援してるからね」と笑ってくれる彼女の顔を思い浮かべ、俺の口元が自然と緩んだ。

その時だった。
社内メールの受信を知らせるポップアップが、パソコンの画面の隅に表示された。

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