アンコールはリビングで
だが、俺が今日一番驚き、そして舌を巻いたのは。
その暴発寸前の怒りを、彼が自らの強靭な意志で、腹の底へと完璧に封じ込めたことだった。

「……僕は、彼女のことを隠し通すつもりはありません。いつか、きちんと自分の口で公表したいと思っています」

極限まで感情を押し殺した、冷徹な声。

『自分がここで感情的に暴れれば、結果的に一番傷つくのは凪さんだ』ということを、彼は痛いほど理解している。

愛する女性を守り抜くために、自らの本能的な怒りすらも完璧にコントロールしてみせた彼を見て、俺は小さく息を吐いた。

「……ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。志水専務、島崎さんも、ありがとうございます」

深く頭を下げる彼を見て、俺は彼の肩をポンと軽く叩いた。

「早瀬くんが謝ることじゃないよ。……ただ、しばらくは今まで以上に警戒レベルを上げてほしいな。凪さんにも、迷惑をかけないようにね」

言葉には出さず、俺は心の中で彼に向けて最大の賛辞を送った。

これほどまでに一人の女性を深く愛し、理性を総動員して守り抜こうとする男。

彼のマネージャーとして伴走できることを、俺は本当に誇りに思っていた。

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