アンコールはリビングで
3. 猛獣の自制と、マネージャーの誇り

その日の午後。
窓のない重役用会議室で、志水専務と共に早瀬くんにゲラを見せた時の、彼のあの底知れない怒りを、俺は一生忘れないだろう。

テーブルの上のコピー用紙を一瞥した瞬間。

早瀬くんの瞳の奥で、ドス黒いマグマのような殺意が音を立てて沸き上がるのを、隣に座っていた俺は肌で感じた。

彼が握りしめた拳は、骨が白く浮き出るほどに力んでおり、今にもこの会議室のテーブルを叩き割ってしまいそうなほどの異常な怒気だった。

(……やっぱりな。凪さんのことになると、彼は誰にも止められない猛獣になる)

早瀬くんは元々、白井不動産という一流企業のやり手デベロッパーであり、常に冷静で合理的な男だったと聞いている。
俺が初めて彼をスカウトした時も、彼は仕事の出来る社会人として事務的に対応していた。

だが、凪さんのことになると、彼のその完璧なまでの合理性は跡形もなく吹き飛ぶ。

彼女を守るため、彼女を独占するためなら、周囲がどうなろうと知ったことではないという、危ういほどの執着心を隠そうともしないのだ。

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