アンコールはリビングで
今日の湊は、ゆったりとしたネイビーのシャツの袖を無造作に捲り上げている。

そして何より、ツアーに向けて短く切り揃えられた、夏仕様のあのセンターパートの髪型。

オンの時の完璧なセットとも家での洗いざらしの髪とも違う、少し前髪を下ろしたラフなスタイリングが、私にとっては信じられないくらい刺さったのだったのだ。

私が予想外の胸の高鳴りに戸惑って固まっていると、湊は私がシートベルトを締めたのを横目で確認し、面白がるようにニヤリと笑った。

『俺に見惚れてんだろ』とでも言いたげな顔で、彼がアクセルを軽く踏み込むと、漆黒の車体は静かに、けれど力強く夜の街へと走り出した。

街灯の光が車内に差し込むたびに、重たいステアリングを片手で操る彼の手の甲から前腕にかけての、男らしい筋と骨張ったラインが浮かび上がる。

断続的に繰り返されるその鮮やかな陰影が、彼の大人の男としての魅力をこれでもかと暴力的なまでに際立たせていて……。

私はもう、まともに直視することなんてできず、逃げるように視線を前へと戻した。

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