アンコールはリビングで
3. 記憶をなぞる、完璧なエスコート

カーオーディオからは、静かなネオソウルのビートが微かに流れている。

車は滑るように都内を走り抜け、やがて見慣れた大きなショッピングモールの前を通りかかった。

「あ……ガレリアプラザだ」

「おう。ちょっと遠回りだけどな」

ライトアップされた見慣れた建物を窓越しに見つめていると、湊が左手でウインカーを出しながら言った。

「……ツアーでしばらく東京離れる前に、凪との思い出の場所、もう一回見とこうと思って」

その言葉に、私は思わず息を呑んだ。

まるでタイミングを合わせたかのように、聴き覚えのあるイントロが流れ出す。グローヴァー・ワシントン・ジュニアの『Just the Two of Us』。

同棲を始めた初日の夜。
湊がギターで弾き語りをしてくれて、そのあまりのかっこよさに、私が初めて彼を『湊』と呼び捨てにした、あの特別な曲だ。

明日からツアーが始まるという極限の忙しさの中で、彼は私のために、思い出の場所を巡りながら綺麗な夜景を楽しめる、こんなに完璧なドライブコースを考えてくれていたのだ。

渋滞を避けたスムーズなルート選びといい、2人きりの車内に響くBGMのタイミングといい、彼のエスコートはどこまでもスマートで、深い愛情に満ちていた。

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