アンコールはリビングで
「……あと、数日か」

俺はスマホを握りしめたまま、広すぎるベッドに身を投げ出した。

シーツからは、凪の甘く落ち着く石鹸の香りはしない。
ホテルの、清潔すぎて味気ない、無機質な匂いだけが鼻を突く。

目を閉じれば、あの日、ドライブの車内で見た、夜景よりも綺麗な凪の横顔が浮かぶ。

次に帰った時は、あの華奢な身体を腕の中に閉じ込めて、この数日分の寂しさを全部埋め合わせるくらい、とことん甘やかしてやる。

『初日、無事に終わった。マジで最高の景色だったわ。……でも、帰ったら凪のご飯がないのが一番キツいな。今日は疲れたからもう寝るわ。おやすみ、凪』

素っ気ないふりをして、精一杯の「寂しい」を込めたメッセージを送る。

すぐに届いた『本当にお疲れ様! ゆっくり休んでね。おやすみ』という優しい返信を、俺は何度も、何度も読み返した。

その夜、五万人の神様だった男は、ただ一人の女を求めて、ひどく孤独で、けれど幸福な熱を帯びたまま眠りについた。

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