アンコールはリビングで
「ち、違うの! まだ、渡したいものがあるの……っ!」

真っ赤になった顔と潤んだ瞳で必死に訴えかけると、湊はようやく、名残惜しそうに腕の力を少しだけ緩め、ブラウスから手を抜いてくれた。

「……渡したいもの? ……俺、もう凪から十分すぎるくらいもらったけど」

あの完璧な手料理と、身バレを気にした愛おしいケーキ。
これ以上何があるんだと、彼の琥珀色の瞳が熱っぽく問いかけている。

「……そもそも、まだケーキ食べてないでしょ! さっき、ロウソク消しただけじゃない……!」

私がワタワタと反論すると、湊は毒気を抜かれたように、「……あ、そういやそうだな」と少しだけ間の抜けた声を出した。

「け、ケーキ、切ってくるから! だから、紅茶飲みながら待っててね? 食べながら、渡したいものもあるから……っ!」

私は彼の腕の拘束からスルリと抜け出すと、ケーキの乗ったお皿を持ち上げ、パタパタとスリッパの音を立ててキッチンへと逃げ込んだ。

「んー……お預けか。大人しく待ってるとするわ」

背後から聞こえる彼の楽しそうな、けれど獲物を待つような余裕を含んだ笑い声に、私はさらに顔を熱くしながら、包丁を握る手を落ち着かせるのに必死だった。
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