アンコールはリビングで
(……あ。ベースとドラムのキックの分離感が……すごく綺麗)

ドームという巨大な空間は、どうしても音が反響してしまい、低音域が濁って聞こえがちだ。

けれど、今日のサウンドは全く違った。

重低音がしっかりとお腹の底に響きながらも、ベースの繊細なメロディラインと、ドラムのキックのアタック音が、それぞれ独立して驚くほどクリアに耳に届いてくるのだ。

『……なるほど。ここで、ベースの入りを半拍……』

その瞬間、私の脳裏に、数日前のキッチンの光景が鮮明にフラッシュバックした。

宮城公演から帰ってきた直後。

水を流しっぱなしにしたまま、自分の手元あたりをじっと見つめ、恐る恐る近づくことも躊躇われるほどの過集中で思考の海に沈んでいた湊の横顔。

あの時、彼はまさに、この東京ドームという大舞台で「完璧な音」をファンに届けるため、頭の中で計算していたのだ。

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