アンコールはリビングで
「箸なら、いいやつでも重すぎねぇしな。……もらって困るもんじゃねぇだろ」

「そうだよね。今度の日曜に、ちょっと見に行ってみようかな」

「……じゃあ、俺も行こうかな。最近、凪とどこも行ってねぇし」

「え、いいの?」

「暇なんだよ俺は。……今週はな」

「え! すごい、久しぶりに湊とデートできる!」

「……デートな。じゃ、その日は他に入れねぇようにしとくわ」

そう言って、湊は麦茶のグラスに口をつけた。

隠しきれていない笑みごと、飲み込むみたいに。

私は嬉しくなってスマホのスケジュールを開く。

今度の日曜日は、まだ何も入っていない。

「……凪」

「ん?」

「おめでとうって、伝えといて」

思わず手を止めて顔を上げる。

湊は箸を置いて、麦茶のグラスの縁を指でなぞっていた。

「……名前は、出せねぇけどな」

その声に、悔しさも自嘲もない。

名前を出せないことを、彼はもう、とっくに引き受けている。

「……うん。ちゃんと伝える」

私はそれ以上何も言わずに、スマホを伏せて、彼の肩をそっと撫でた。

それから他愛のない会話をしながら、私たちは湊の力作である角煮を綺麗に平らげた。

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