アンコールはリビングで
「……四年半、な」

私の肩が微かに跳ねる。最後まで言わなかったことを、彼はもう分かっている。

「……その話は、俺からさせてくれ。ちゃんと考えてるから」

彼は私の髪を梳きながら、甘く、けれど絶対的な確信を持った声で言った。

「だから。……凪は、俺の隣で待ってろ」

「…………っ」

待ってろ。

その短く、強引で、俺様な、どこまでも彼らしい言葉が。

私の心の中に分厚く張られていた氷を、一瞬にして溶かしていった。

彼が「待ってろ」と言うなら。

それは、形がないわけじゃない。まだ、二人の目の前に届いていないだけなんだ。

あの四月末の旅行で、「二ヶ月後に届く」と言われた器が、今日、確かにこの食卓に届いたように。

私と彼が一緒に生きていく未来の形も、彼の中でちゃんと作られていて、今、焼き上がるのを待っている最中なのだ。

「……うん」

やっと出てきたのが、その一言だった。

返事をした拍子に、目からポロリと一粒こぼれ落ちる。

湊は困ったように眉を下げると、カウンター越しに手を伸ばして、私の目尻を親指でそっと拭ってくれた。

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