アンコールはリビングで
5. 食器棚の最前列

「……泣くなって。せっかく格好つけたんだからよ」

「……だって」

私は手の甲で目をこすった。

「……ずっと、言わないほうがいいんだと思ってたから」

湊は「知ってるよ」とあっさり答えて、私の頬を軽くつねった。

「だから言ってんの。俺の前でくらい我慢すんな」

そこまで言われたら、物分かりのいい年上彼女のままではいられない。

少しだけ、甘えてみてもいいのかもしれない。

「……ねえ、湊」

「ん?」

「待ってるから……私、ちゃんと待ってるからさ」

私は涙で濡れた瞳で彼を見上げ、少しだけ上目遣いになる。

< 969 / 1,000 >

この作品をシェア

pagetop