08 ーHACHIー ~俺の彼女と私の彼~
EP35 変革(1)
ヒロトとの通信を終え、携帯端末にデートの待ち合わせ時間を登録しようとした時。
ユイは、灯りを消した部屋の窓辺で、月光を浴びるマシューがふと視界に入った。
白いボディが銀色に輝く。
最近、マシューの黒いカメラアイがスカイブルー色に輝くときがある。
その状態は、マシュー曰く“アップデート”中なのだという。
(一体何を学習しているんだろう?)
昔、どこかで銀色の長い髪の少女と過ごした時間があった。
自分と同年代ぐらいの、とてもきれいな顔立ちのお人形の様な少女だった。
名前を聞いたような気がするのに、その名前は思い出せない。
携帯端末に今もついている小さな四葉のクローバーのチャーム。
これは誰から貰ったの?
“四葉のクローバー”を模してつくられたこれを、どうして大事にしているのか、ユイ自身さえも分からない。
(彼女の瞳は確か……)
しかし思い出そうとすればするほど、その記憶は霧の中に消えていく。
ユイは軽い頭痛を感じ、こめかみを押さえた。
(いけない、待ち合わせ時間を忘れちゃう。)
ユイはそれ以上の思考を止める。
マシューから視線を外し、携帯端末に時間を設定する。
これで一安心。
「……ユイ」
横を向くと、マシューが黒いカメラアイを向ける。
しかしその視線はユイを見ていない。
ただユイが持つ携帯端末の、小さな四葉のクローバーのチャームをじっと見つめていた。
「それは、“四葉のクローバー”か?」
「うん、でも本物じゃないの。昔……誰かに貰ったの」
「なぜ、ニセモノを?」
ユイはそのチャームを見下ろす。
「ん~、どうしてかな。たぶんこれが気に入ったからだと思う」
「そうか。ユイにとっては本物なんだな」
月光を背に浴びたマシューのカメラアイがスカイブルー色に輝く。
幻想的なその色をユイは静かに見つめた。
スカイブルーから青紫、紫。そして黒く戻っていく眼。
その眼に確かに自分が映っているはずなのに、マシューはユイの目を見ていない。
(まただ。……マシューと私の間に見えない何かがある)
「マシュー……」
「どうした? なにかあったか?」
ユイが携帯端末を持ったまま、手を下ろしたその時。
「あ……」
四葉のクローバーの金具が外れ、小さな音を立てて床に転がる。
マシューは何も言わず、落ちたチャームをくわえた。
それを、静かにローテーブルの上に置く。
「大事なものなんだろう? 俺には直せないが、ヒロトに頼んでみると良い」
「うん……」
喉元まできた言葉。
溢れる疑問。
「ねぇマシュー……。あなたは、……マシュー?」
マシューは黒いカメラアイを満月に向ける。
「ああ。マシューだ」
そのカメラアイは、変わらず月を映している。
ユイはマシューの隣に腰をおろす。
二人の間に風が入り込む。
「月……キレイ、だね」
「俺の挙動が気になるのなら、ヘルプデスクに問い合わせてくれ」
ユイは、ローテーブルの四葉のクローバーのチャームを引き寄せる。
月の光を浴びたニセモノは、本物よりも輝いて見える。
金具が壊れたそのチャームを、ユイはそっと手に包む。
『優先するのは“機械”ではなく“人間”であるべきよ』
レイラの言葉が心の中に影を落とす。
(私はちゃんと“境界線”、維持できてる)
「……そうするよ」
小さく頷くマシュー。
触れたら壊れてしまうほど繊細な“主”の背中が遠のく。
マシューはその背中が見えなくなるまで、視線を向けていた。
ユイは、灯りを消した部屋の窓辺で、月光を浴びるマシューがふと視界に入った。
白いボディが銀色に輝く。
最近、マシューの黒いカメラアイがスカイブルー色に輝くときがある。
その状態は、マシュー曰く“アップデート”中なのだという。
(一体何を学習しているんだろう?)
昔、どこかで銀色の長い髪の少女と過ごした時間があった。
自分と同年代ぐらいの、とてもきれいな顔立ちのお人形の様な少女だった。
名前を聞いたような気がするのに、その名前は思い出せない。
携帯端末に今もついている小さな四葉のクローバーのチャーム。
これは誰から貰ったの?
“四葉のクローバー”を模してつくられたこれを、どうして大事にしているのか、ユイ自身さえも分からない。
(彼女の瞳は確か……)
しかし思い出そうとすればするほど、その記憶は霧の中に消えていく。
ユイは軽い頭痛を感じ、こめかみを押さえた。
(いけない、待ち合わせ時間を忘れちゃう。)
ユイはそれ以上の思考を止める。
マシューから視線を外し、携帯端末に時間を設定する。
これで一安心。
「……ユイ」
横を向くと、マシューが黒いカメラアイを向ける。
しかしその視線はユイを見ていない。
ただユイが持つ携帯端末の、小さな四葉のクローバーのチャームをじっと見つめていた。
「それは、“四葉のクローバー”か?」
「うん、でも本物じゃないの。昔……誰かに貰ったの」
「なぜ、ニセモノを?」
ユイはそのチャームを見下ろす。
「ん~、どうしてかな。たぶんこれが気に入ったからだと思う」
「そうか。ユイにとっては本物なんだな」
月光を背に浴びたマシューのカメラアイがスカイブルー色に輝く。
幻想的なその色をユイは静かに見つめた。
スカイブルーから青紫、紫。そして黒く戻っていく眼。
その眼に確かに自分が映っているはずなのに、マシューはユイの目を見ていない。
(まただ。……マシューと私の間に見えない何かがある)
「マシュー……」
「どうした? なにかあったか?」
ユイが携帯端末を持ったまま、手を下ろしたその時。
「あ……」
四葉のクローバーの金具が外れ、小さな音を立てて床に転がる。
マシューは何も言わず、落ちたチャームをくわえた。
それを、静かにローテーブルの上に置く。
「大事なものなんだろう? 俺には直せないが、ヒロトに頼んでみると良い」
「うん……」
喉元まできた言葉。
溢れる疑問。
「ねぇマシュー……。あなたは、……マシュー?」
マシューは黒いカメラアイを満月に向ける。
「ああ。マシューだ」
そのカメラアイは、変わらず月を映している。
ユイはマシューの隣に腰をおろす。
二人の間に風が入り込む。
「月……キレイ、だね」
「俺の挙動が気になるのなら、ヘルプデスクに問い合わせてくれ」
ユイは、ローテーブルの四葉のクローバーのチャームを引き寄せる。
月の光を浴びたニセモノは、本物よりも輝いて見える。
金具が壊れたそのチャームを、ユイはそっと手に包む。
『優先するのは“機械”ではなく“人間”であるべきよ』
レイラの言葉が心の中に影を落とす。
(私はちゃんと“境界線”、維持できてる)
「……そうするよ」
小さく頷くマシュー。
触れたら壊れてしまうほど繊細な“主”の背中が遠のく。
マシューはその背中が見えなくなるまで、視線を向けていた。