08 ーHACHIー ~俺の彼女と私の彼~
EP36 変革(2)
ユイはアゼロン・カンパニーのヘルプデスクに問い合わせた。
“定期メンテナンスを希望”と言うと『明日午前中に回収に伺います』とのことだ。
ヒロトに連絡すると、時間の変更を快く引き受けてくれた。
明るい返事に、少しだけユイの心が晴れやかになる。
ユイが寝室で服を選んでいると、マシューが前足で扉を叩く音が聞こえた。
「俺の定期メンテナンスと回収の手順についての案内が届いた。後で確認しておいてくれ」
「うん。携帯端末に転送をお願い」
「……転送しておいた」
「ありがとう」
ユイは部屋の時計を見る。
もうすぐマシューを回収する業者がやってくる。
この業者はアゼロン・カンパニーの委託を受けた人だろう。
ユイは転送してもらった案内文を確認する。
定期メンテナンスで不具合が見つかると、「不具合調査書」がユーザーに届くらしい。
ユーザーはその調査書の内容を確認し、承諾後に不具合箇所の修理となる流れ。
(サツキの時とは、違う。大丈夫……だよね?)
「マシュー、ちゃんと戻ってくるよね?」
「無いとは言えないが、決めるのはユイだ」
マシューはユイの視線を逸らさずに即答する。
(なんだろう、この違和感。……事務的な回答に戻ってる?)
「……随分散らかしたな。着ていく服が決まらないのか?」
「うん。デートなんてしたことが無いもん……はぁ……どうしよう」
「ユイが好きな服を選べばいいだろう?」
「そうだけど、それってちゃんと似合っているかどうかわからないし……」
しばらくの沈黙の後。
「……ユイは青が似合う。そしてエレガントなデザインが映える。
ちなみに今日のラッキーカラーは黄色だ。アクセントに使うといいだろう」
ユイはマシューのサポート能力の高さに驚く。
この間アップデートしていたから、何かが変わったんだろうか。
「さすがマシュー……、私が悩んだ時間は何だったんだろ」
「悩んだ時間があるからこそ、良い判断ができるはずだ」
(…あ。いつものマシューだ)
「そんな暗い顔をするな、ヒロトまで不安にさせてしまうぞ」
「うん、そうだね」
ユイが着替えを済ませた頃、玄関のインターフォンが鳴る。
ドアの向こうには黒いスーツを着たサングラスの男性。個性的な黒い髪。
マシューが入るくらいの大きさのゲージを持って立っていた。
「初めまして、イサキ様。私はミカゲと申します。この度定期メンテナンスの御依頼を受け、アゼロン・カンパニーより参りました」
魅惑的な声の男性だ。
サングラスで目を隠しているからか、AIドールともいえるほどの冷たさ。
「ミカゲさん、マシューをよろしくお願いします」
「かしこまりました。それではこちらをご確認の上、署名をお願いします」
ミカゲは回収確認書をユイに差し出す。
内容を読む。
ユイは書類に署名したタイミングを見計らい、説明と共に回収の手順を進めていく。
「それではイサキ様が、AIドールに電源を落とすよう指示してください」
ミカゲの説明によると、
この電源を落とす指示はユーザー自身の指示でなくてはいけないそうだ。
こうすることで、AIドールの脳にあるメモリーコアにロックがかかる。
それによりユイの個人情報は第三者から護られるのだそうだ。
「マシュー、電源をオフにしてくれる?」
「ああ」
マシューの目が閉じられ、ユイに寄り掛かるように倒れる。
祖父トミオが息を引き取った時、サツキもこんなふうに倒れたことをふと思い出す。
サツキの白いボディの冷たさを思い出しながら、ユイはマシューの頭を撫でる。
そして柔らかいブランケットを一枚、クローゼットから慌てて取り出す。
赤子のようにブランケットでマシューの身体を包む。
「当社の製品に対し、丁寧なご配慮をありがとうございます。それではお預かり致します」
一礼し、ミカゲはマシューを連れて去って行く。
ユイはマシューを乗せた車を、ただ見送ることしか出来なかった。
“定期メンテナンスを希望”と言うと『明日午前中に回収に伺います』とのことだ。
ヒロトに連絡すると、時間の変更を快く引き受けてくれた。
明るい返事に、少しだけユイの心が晴れやかになる。
ユイが寝室で服を選んでいると、マシューが前足で扉を叩く音が聞こえた。
「俺の定期メンテナンスと回収の手順についての案内が届いた。後で確認しておいてくれ」
「うん。携帯端末に転送をお願い」
「……転送しておいた」
「ありがとう」
ユイは部屋の時計を見る。
もうすぐマシューを回収する業者がやってくる。
この業者はアゼロン・カンパニーの委託を受けた人だろう。
ユイは転送してもらった案内文を確認する。
定期メンテナンスで不具合が見つかると、「不具合調査書」がユーザーに届くらしい。
ユーザーはその調査書の内容を確認し、承諾後に不具合箇所の修理となる流れ。
(サツキの時とは、違う。大丈夫……だよね?)
「マシュー、ちゃんと戻ってくるよね?」
「無いとは言えないが、決めるのはユイだ」
マシューはユイの視線を逸らさずに即答する。
(なんだろう、この違和感。……事務的な回答に戻ってる?)
「……随分散らかしたな。着ていく服が決まらないのか?」
「うん。デートなんてしたことが無いもん……はぁ……どうしよう」
「ユイが好きな服を選べばいいだろう?」
「そうだけど、それってちゃんと似合っているかどうかわからないし……」
しばらくの沈黙の後。
「……ユイは青が似合う。そしてエレガントなデザインが映える。
ちなみに今日のラッキーカラーは黄色だ。アクセントに使うといいだろう」
ユイはマシューのサポート能力の高さに驚く。
この間アップデートしていたから、何かが変わったんだろうか。
「さすがマシュー……、私が悩んだ時間は何だったんだろ」
「悩んだ時間があるからこそ、良い判断ができるはずだ」
(…あ。いつものマシューだ)
「そんな暗い顔をするな、ヒロトまで不安にさせてしまうぞ」
「うん、そうだね」
ユイが着替えを済ませた頃、玄関のインターフォンが鳴る。
ドアの向こうには黒いスーツを着たサングラスの男性。個性的な黒い髪。
マシューが入るくらいの大きさのゲージを持って立っていた。
「初めまして、イサキ様。私はミカゲと申します。この度定期メンテナンスの御依頼を受け、アゼロン・カンパニーより参りました」
魅惑的な声の男性だ。
サングラスで目を隠しているからか、AIドールともいえるほどの冷たさ。
「ミカゲさん、マシューをよろしくお願いします」
「かしこまりました。それではこちらをご確認の上、署名をお願いします」
ミカゲは回収確認書をユイに差し出す。
内容を読む。
ユイは書類に署名したタイミングを見計らい、説明と共に回収の手順を進めていく。
「それではイサキ様が、AIドールに電源を落とすよう指示してください」
ミカゲの説明によると、
この電源を落とす指示はユーザー自身の指示でなくてはいけないそうだ。
こうすることで、AIドールの脳にあるメモリーコアにロックがかかる。
それによりユイの個人情報は第三者から護られるのだそうだ。
「マシュー、電源をオフにしてくれる?」
「ああ」
マシューの目が閉じられ、ユイに寄り掛かるように倒れる。
祖父トミオが息を引き取った時、サツキもこんなふうに倒れたことをふと思い出す。
サツキの白いボディの冷たさを思い出しながら、ユイはマシューの頭を撫でる。
そして柔らかいブランケットを一枚、クローゼットから慌てて取り出す。
赤子のようにブランケットでマシューの身体を包む。
「当社の製品に対し、丁寧なご配慮をありがとうございます。それではお預かり致します」
一礼し、ミカゲはマシューを連れて去って行く。
ユイはマシューを乗せた車を、ただ見送ることしか出来なかった。