「魔王の定義」魔王になる運命の私は、その運命にあらがいたい
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「それではジェシカ、行ってくるよ」
「はい。お気をつけて……必ず帰ってきてくださいね」
私たちは離れるのが寂しいと、ギュっと抱擁を交わす。1分、2分とその状態から離れる様子のない私たちに向かって、ルノア様がわざとらしく咳払いをして見せた。
「ゴホン!騎士団長、いつまでそうしている気ですか、寂しいのは分かりますがさっさと行ってください。これを見せつけられる私たちの身にもなって下さい」
そう言われジェシカが周りを見渡すと、若い騎士様たちはもじもじしながら顔を赤らめ、年配の騎士様たちは呆れたような顔をしていた。
ジェシカは皆の様子に顔を赤らめ、ジュウド様の胸を押して体を引きはがした。それを見たジュウド様が悲しそうな顔をしたが仕方がない。それに私はジュウド様に渡したいものがある。
「ジュウド様、あのこれを……」
私はポケットから小さな小瓶を取り出した。それは私たちの空色の瞳と同じ色の液体が入った小瓶だった。
「これは?」
「リコリスの花から抽出した回復薬です。瀕死の状態……えっと、数秒心臓が止まってしまっても回復できるポージョンです」
その言葉にジュウド様が、目を見開いて驚いた。近くにいたルノア様とレン様も一瞬固まり、ルノア様はすぐに周りを確認して忘却の魔法をかけた。これは今あったことを一瞬だけ忘れる魔法だ。
あれ?
私、何かいけないことをしてしまったかしら?
「ジェシカ様、このことは口外せぬようお願いいたします。これは国宝級の品、この品をめぐって戦争も起こりえるような品物なのです。これが存在していることを知られるのは非常にまずいのです。よろしいですね?」
ルノア様にそう言われ、私の体から血の気が引いた。
どうしよう。
私、いけないことをしてしまったみたい。
「あの……」
私はルノア様に視線を向け、申し訳ないと思いながら瞳を潤ませた。
「それ……30個ほど作ってしまったんですけど……」
「「「えっ!!」」」
そう、ここ数日ジュウド様は旅立ちの準備で忙しそうだったので、私は一人でこの薬を作っていた。リコリスの花も沢山あるので試作品と思っていたのだが、意外と簡単に出来上がった。かなり魔力を使ってしまったがうまくいって良かったと思っていた。
「ジェシカ嬢、お聞きしたいのですが、この薬はリコリスの花があれば誰でも作れるのですか?」
「いえ、それは無理だと思います」
「なぜですか?」
「この薬を作るのには膨大な魔力が必要です。私は一人で作りましたが、本来ならこの小瓶1本作るのに魔導士が10人は必要だと思います。それに魔力を込めれば良いということではなく、聖魔法が必要なんです。聖魔法が使える人間は国に一人いればよいと言われています。ですので作るのは無理だと考えます」
「なるほど……」
ルノア様が顎に手を当てて頷いた。
「では、リコリスの花があっても、他国でもこの薬は作ることは出来ないということ……」
ぶつぶつとルノア様が何かを言っているが、声は聞き取れない。
「団長、良かったですね。それを持っていれば、全てが良い方向に向かうかもしれませんよ」
「どういうことだ?」
訝しむような顔をしたジュウド様がルノア様に問うと、いつもクールで表情を変えないルノア様の口角が上がった。