欲望と煩悩の狭間で初恋の彼女を愛でる

「そりゃ結婚するんで」

「幸成が?」

「俺、もう29歳だぜ」

「そう…結婚…幸せになってね」

「ありがとう」

梨花子は足立さんも幸成の事を…と感じていた。

「失礼します」とスタッフさんに椅子に座らされると化粧直しとヘアセットをあっという間にしてもらい、少し大人っぽい梨花子が出来上がっていた。


「私?」

「磨けば光るのよ」

「梨花子はそのままでいい、少しの間…俺の東京での最後の誕生日、その間だけ我慢してくれよな」

「幸成、最後って」

「あ、うん、今年地元に戻ったんだ、出張で東京には来るけど、ちょうど足立さんにも挨拶が出来て良かったよ、ありがとう」

もう一度握手を交わすと梨花子の肩を抱いてタクシーを拾った。

「足立さんはモデル時代にお世話になったスタイリストなんだ」

タクシーの中で幸成が話してくれた。

「会社を立ち上げた時も服を使ってくれてさ、芸能人の人も着てくれて、そこから注文も入るようになってさ、恩人だよ」

「それなら何故東京を離れる前に挨拶に行かなかったの?」

「うーん…」

「どうせまた女絡みでしょ、話さなくてもいいよ」

「怒ってる?」

「怒ってはないけど少し呆れてる…でも今日で最後なのよね?」

「そうだ、来年も梨花子といるし、もしかしたら子供がいるかもしれない、来年には寺も少しずつ手伝うし、事業も始めたい」

「…幸成を選んだのは私自身よ、過去に何があっても大事なのはこれからよ、誕生日に喧嘩なんてしたくないわ、立ち入った事を聞いてごめんなさい」

「いや、気遣いが嬉しいよ」

幸成は手を繋いでくれた。

すぐ質問する癖止めなきゃ…

梨花子は反省した。

幸成の女関係をいちいち聞いてたらダメね。

それだけ今は幸成の事が気になるってことなんだろうけど、これがヤキモチって事かしら…

タクシーから降りるとドアには本日貸切と札があった。

「貸切なの?」

「そうらしいな、いつもは違うんだけど」

「主催者は?」

「大学時代の友人」

「じゃあ白木さんも?」

「いるはずだ、いつも友人達と年越しを過ごしてたんだ」

「ふう…緊張する」

梨花子は深呼吸をした。

幸成は肘を出してきた。

「どうぞ」

「ありがとう」

梨花子は幸成の腕に手を回すと店のドアを開けた。

パァーン、パァーンとクラッカーが響き、2人はびっくりして顔を見合せた。

「び、びっくりなんだが…」

梨花子もギュッと腕を掴んでいた。

「幸成、おめでとうー」

拍手と共に店の奥に入っていく。

梨花子もペコペコ頭を下げながら幸成と一緒に歩く。
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