塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 レナルドは肩をすくめたあと、何か言いたげにラシェルをじっと見つめた。その視線が意味することを察して、ラシェルは背伸びをすると彼の頬にそっと口づけた。言葉だけでなく、『行ってらっしゃいのキス』をしてほしいというレナルドの希望なのだ。さすがに自分から唇にキスをするのは恥ずかしくて、頬にするのが精一杯だけど。

 ラシェルの唇が掠めた頬を嬉しそうに撫でたあと、レナルドは片手をあげて出て行った。

 彼の足音が聞こえなくなるまでじっと見送ったあと、ラシェルは自室に戻る。今日は、昼からドレスショップへ出かける予定だ。

 先日、新たに仕立てることになったドレスの仮縫いが出来上がったというので、試着に行くのだ。

 本当はレナルドも一緒に行きたいと言っていたのだが、重要な会議があるとのことで、ラシェル一人で行くことになっている。

 午前中は書庫で読書をして過ごし、昼過ぎに侍女のコレットを伴って、ラシェルは家を出た。


 新たなドレスは夜会用とのことで、これまでに仕立ててもらったものよりも更に豪華なものだった。

 デザインは決して派手ではないのだが、使われている素材がとにかく高級なのだ。うっとりするほど手触りのいいシルク生地をふんだんに使ったドレスは、どれほど高価なのだろうと、試着しながらラシェルは少し遠い目になってしまった。

 それでも、可愛らしさを残した華やかなドレスはとても素敵だ。動きのあるフリルを幾重にも重ねたスカートはまるで花びらのようだし、胸元に縫いつけられたビーズは、少し動くだけできらきらと光を放つ。ドレスの色はレナルドの瞳を思わせる淡い緑をしており、腰に飾られた大きなリボンは艶やかな黒いサテンだ。もちろんその色は、彼の髪色を意識してのことだろう。
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