塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 もっと話していたかったのにと思いながら、レナルドは、手の中の栞をじっと見つめる。いかにも手作りといった素朴な栞だが、これは一生の宝物にしようと決めた。

 自信を失っていた心を救ってくれた彼女の優しさに、レナルドは心惹かれてしまった。

 もしもレナルドが立派な騎士になれたら、彼女にまた会えるだろうか。

 名前を聞けなかったことは痛手だが、今日のお茶会に参加しているということは、貴族令嬢で間違いない。またどこかで出会えたら、その時にあらためて名前を聞けばいい。その日まで、騎士を目指して努力をし続けようと決意して、レナルドは栞を抱きしめるように胸の前でぎゅっと握った。


 お茶会で出会った少女がラシェル・ブラン男爵令嬢であることは、随分あとになるまで知らなかった。

 あの日以来、少女の姿を社交界で見かけることが全くなかったのだ。

 もしかして彼女に会ったのは夢だったのではないかと思うくらいだったが、レナルドの手の中にはあの時彼女がくれた栞が確かにある。

 手がかりといえば少女を迎えに来た少年だが、顔を見たのは一瞬なので覚えていない。それが彼女の幼馴染である、セヴラン・ノディエ伯爵令息であることも、その頃は全く知らなかった。

 いつかどこかで出会えることを期待して、レナルドはもらった栞をお守りにしながら鍛錬に励んだ。

 そして、夢を叶えて騎士となったレナルドは、ついに彼女――ラシェルと再会することになる。
 
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