塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 小さな手が差し出したのは、小さな黄色い花を押し花にした細長い栞。上に結ばれた青いリボンが、彼女の瞳を思わせる。

「私の手作りの栞です。金蓮花には、勝利や成功を意味する花言葉があるんですよ。だから、きっとお守りになります!」

「もらっても、いいのか……?」

 問いかけたレナルドに、少女はもちろんと大きくうなずいた。

「さっき、このままずっと下りられなかったらどうしようってすごく怖かったし、心細かったんです。だから、助けてもらって本当に安心しました。困っている人を迷わず助けることのできる人は、きっと立派な騎士になれます!」

「っ、ありがとう」

 迷いのない瞳で力強くそう言われて、レナルドの胸の奥がふんわりとあたたかくなる。自信を失っていたが、彼女の言葉ひとつで前を向けるような気がした。

 もらった栞をしっかりと握りしめてうなずくと、少女は嬉しそうに笑った。

「あの、きみの名前を――」

 レナルドがそう問いかけようとした時、背後から「おい!」と呼びかける子供の声が聞こえた。思わず言葉を切って振り返ると、少女と同じ年頃の少年がこちらに向かって駆けてくるところだった。

「おまえ、こんなところで何してるんだよ。ずっと探してたんだぞ」

「あの、リボンが木に引っかかって……」

「そんなことより、早く行くぞ。母上が呼んでる」

「え、ちょっと、待っ」

 少女の話を聞こうともせず、少年はぐいぐいと腕を引っ張る。よろめきながら歩き出した少女が、レナルドを見上げてぺこりと頭を下げた。

「本当に、ありがとうございました」

「あぁ、気をつけて」

 レナルドと少女が会話を交わしたことが気に入らないのか、少年はギッとレナルドをにらみつけると、そのまま彼女の腕を引いて行ってしまった。
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