塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 没落寸前の貴族には、よくあることだ。親子ほど年の離れた貴族の後妻として嫁入りした令嬢や、男好きの貴族女性の愛人となった令息の話を、いくつも耳にしたことがある。

 それが幸せな生活に結びつかないことが大半であるのを、レナルドは知っている。だが、ラシェルを手に入れるのにこれ以上の機会はない。

 きっと、愛されることはないだろう。彼女にとってレナルドは、婚約者同然の幼馴染との仲を引き裂く最低な男になるのだから。

 それでも、どうしてもラシェルが欲しかった。自分の持っている全てを捧げてでも、そばにいてほしい。

 誰よりも先に援助を申し出なければと、レナルドはその日のうちにブラン男爵家を訪問した。


 久しぶりに顔を合わせたラシェルは、相変わらず美しかった。思わずぼうっと見惚れてしまいそうなので、レナルドは表情を変えないよう意識しながら腹に力を入れる。

 そしてブラン男爵家の借金返済と引き換えに、ラシェルとの結婚を打診した。

 彼女はもちろん驚いていたが、必死に説得をする。もちろんこの想いを告げるわけにはいかないので、国内の派閥に影響のない相手として選んだのだという表向きの理由を全面に押し出した。

 正直なところ最低な理由だと思っていたが、彼女はしばらく考え込んだあと、はっきりとうなずいて受け入れてくれた。

 天にも舞い上がりそうな気持ちを隠しながら、レナルドは冷静さを装って結婚の手続きを進めていく。即書類を提出させたのは、万が一あとで気持ちが変わっても、覆すことができないと考えたからだ。政略結婚の相手を金で買うなんて最悪でしかないが、なりふり構っていられなかった。
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