塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 うつむくラシェルをじっと見つめながら、レナルドは内心でため息をつく。彼女がこの結婚を受け入れたもう一つの理由は、過去に助けられたことに対する恩返しなのだろう。律儀な彼女らしいと思うが、やはり全く気持ちが向けられていないことを突きつけられて切ない。

 ラシェルの口から結婚を受け入れる発言を引き出し、書類上でも彼女を縛った。どうせラシェルは望んでいないだろうから結婚式は挙げず、それでも一刻も早くそばにいてほしいから、一緒に暮らすことを急がせた。

 必要なものは何でも買い揃えたが、彼女への接触は極力避ける。近くにいればきっと、うっかり想いを告げてしまうから。そんなことをすれば、困らせるだけだ。

 まさに形だけの結婚生活といった感じだが、ラシェルは文句ひとつ言わない。淡々と受け入れる様子を見て、自分からそれを望んだくせにレナルドは胸をかきむしりたいほどの複雑な思いを抱えていた。

 愛のない、それでもレナルドだけが一方的に幸せな結婚生活が一か月を過ぎた頃、思いもよらない出来事が起きた。

 任務の最中に頭を打って、レナルドは記憶を失ってしまったのだ。
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